高柳健次郎賞・高柳健次郎業績賞

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目的・詳細

高柳健次郎賞 メダル
メダル
高柳健次郎賞 楯(▼拡大)
楯
高柳健次郎業績賞 楯
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楯

1。 目的

高柳健次郎賞・高柳健次郎業績賞は、電子科学技術に関する優れた研究により、わが国のこの分野の振興並びに産業の発展に貢献された方々の功績に報い、電子科学技術の更なる発展とその啓蒙に寄与することを目的とした賞です。

2。 表彰内容

1)高柳健次郎賞1件     表彰楯並びに記念のメダル(18K)を贈呈
2)高柳健次郎業績賞 2件     表彰楯並びに副賞として賞金各50万円を贈呈

3。 候補者選考

当財団が定める、選考委員会規則及び高柳健次郎賞・同業績賞選考規程に基づき、選考委員 会で推薦書審査により候補者を選定し、選定候補者から提出された業績内容を審査し、受賞 候補者を内定します。
理事会の承認を経て決定し、11月下旬に結果通知を郵送いたします。

4。 候補者推薦(公募)

1)高柳健次郎賞は、次の条件を満し、人格的にも優れ、わが国を代表する指導的立場の人

・電子工学、情報通信工学及び放送工学などの分野で、特に優れた成果のあった人

・同分野で、技術や産業の発展、研究者の人材育成などに多大な貢献をした人

2)高柳健次郎業績賞は、電子工学、情報通信工学及び放送工学などの分野で、将来性ある研究成果をあげ、技術の発展や産業に貢献した人で、次世代を担うに相応しい人、 概ね、50歳以下とする。

3)候補者推薦者は、候補者が所属または関連する企業・団体等の責任者とします。
故人及び自己推薦は受け付けていません。

高柳健次郎賞 2023年受賞者

高柳健次郎賞 歴代受賞者(別ページ)矢印

「ハイビジョン放送方式の研究開発および国際標準化への貢献」

西澤 写真

西澤 台次(日本放送協会 放送技術研究所 元所長 1942生)

[学 歴] 1965年  3月東京大学 理工学部電子工学科 卒業
[職 歴] 1965年  4月日本放送協会 入局
1982年  8月日本放送協会 放送技術研究所 新放送方式研究部 主任研究員
1988年  7月日本放送協会 放送技術研究所 テレビ方式研究部 部長
1990年  6月日本放送協会 放送技術研究所 次長
1994年  6月日本放送協会 放送技術研究所 研究主幹
1995年  6月日本放送協会 放送技術研究所 所長
1990年  6月国際電気通信連合 ITU-R WP11B 議長 ITU-R SG11 副議長
1999年  4月シャープ株式会社 入社 2001年6月 シャープ株式会社 取締役
2003年  6月シャープ株式会社 フェロー 西澤研究所 所長
  ● 主な受賞等
1985年放送文化基金 放送文化基金賞
1986年電子通信学会 論文賞
1991年日本ITU協会賞
1992年テレビジョン学会 丹羽高柳賞業績賞
1993年逓信協会 前島賞(発明・改良)
1994年情報通信月間推進協議会 情報通信功績賞
1996年テレビジョン学会 丹羽高柳賞著述賞
1998年郵政省 電波の日・情報通信月間 郵政大臣表彰
1998年ハイビジョン推進協会 ハイビジョン推進協会会長賞
1998年文部科学省 科学技術庁長官賞 研究功績者表彰
2000年放送文化基金 放送技術特別賞
2001年映像情報メディア学会 丹羽高柳賞功績賞
2003年Asia-Pacific Broadcasting Union Engineering
Excellence Award
2007年逓信協会 前島賞
2015年The Zworykin Award – The national award for
achievement in television technology

主な業績内容

西澤台次氏らは、ハイビジョンが一般家庭の居間で視聴されることを基本条件として調査し、テレビを観る視距離、画面 の大きさと形、画面の明るさやコントラスト比などを定めた。視距離は、8 畳間での視聴を想定すると3m が上限と考えら れたため、1。5~3m の範囲で変えて画面の大きさと臨場感との関係などの主観評価実験を行い、標準的な視距離を 2。5m に設定した。また、画面の高さ(H)で正規化した視距離は3H を標準とした。
西澤氏は、ハイビジョンの共通の方式による世界統一規格を実現すべく活動を開始した。1972年にCCIR(国際無線通信 諮問委員会:現在のITU-R)にハイビジョンの研究を行うよう提案し、1974年に承認された。1980 年代初めまで、 日本は研究の進捗状況をCCIR に報告し、1983 年にようやく規格化を審議する作業班が作られた。審議は、日本提案の 走査線数1125 本・フィールド周波数60Hz と、欧州提案の1250 本50Hz との間で合意が得られず難航した。 1990 年5 月のCCIR 総会で、各国が合意できる項目に絞って規定した勧告BT。709 が作られた。 その後、西澤氏は放送業務を担う研究委員会SG11の副議長に就任し、勧告の合意項目を増やすことに尽力し、1998年に は有効走査線数1080、水平有効サンプル数1920、アスペクト比16:9 を統一規格とする勧告の改定が行われた。 2000年には、全走査線数を1125 で統一した勧告改定が行われ、ITU-R 勧告BT。709-4 として成立した。

電波を使ってハイビジョンの放送を実現するために開発されたアナログのMUSE 方式は、オフセットサブサンプリング技 術により信号帯域を圧縮するものであり、これによって12GHz 帯衛星放送の1チャンネルでハイビジョンの伝送が可能と なった。1985 年の筑波科学博では、MUSE 方式を用いたハイビジョン伝送実験が展示された。1989年6月には実験放 送が開始され、1991 年11 月からは試験放送、1994 年11 月からは実用化試験放送に格上げされ、一日10 時間の放送 がNHK と民放各社の分担で行われた。西澤氏はNHK 技研において、研究開発の中心であった研究部の部長、続いて NHK 技研の次長を歴任し、これらの実用化を先導した。MUSE 方式の受像機は1990年末から市販され、1999年末に は累計出荷台数が83 万台を超えた。

一方、1990 年代初頭から、デジタル放送方式の開発が世界中で活発になり、日本でも衛星でデジタル放送を開始する ことを決めた。西澤氏は1995 年からNHK 技研所長としてデジタル放送の研究開発を牽引し、NHKが提案したISDB-S 方式を用いたデジタルハイビジョン放送は2000年12月に開始された。デジタル技術の進歩は地上波放送にも及び、NHK は1 チャンネルでハイビジョン1番組を放送できるISDB-T方式を開発した。地上デジタルハイビジョン放送は2003年から 開始された。

以上のように、西澤氏はハイビジョンの放送実現という高い目標を掲げ果敢かつ地道に研究開発や標準化に取り組んだ。 その結果、ハイビジョンはデジタル放送を始めとする汎用的な方式として放送以外でも幅広く利用されることとなり、西澤氏 の貢献は世界的な映像産業の発展に大きな成果をもたらした。

高柳健次郎業績賞 2023年受賞者

高柳健次郎業績賞 歴代受賞者(別ページ)矢印

「光学系・信号処理との協調によるCMOS イメージセンサの高性能・高機能化」

香川 写真

香川 景一郎博士

(国立大学法人 静岡大学 電子工学研究所 教授 1973生)

[学 歴] 1996年  3月大阪大学 工学部応用物理学科 卒業
2001年  3月大阪大学 大学院工学研究科博士課程 物質・生命工学専攻 修了
博士(工学)
[職 歴] 2007年奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 助教
2007年大阪大学 大学院 情報科学研究科 特任准教授
2011年静岡大学 電子工学研究所 准教授
2016年カリフォルニア大学アーバイン校 客員准研究員
2020年静岡大学 電子工学研究所 教授
  ● 主な受賞等
2001年 11月日本光学会 日本光学会奨励賞
2002年   3月応用物理学会 講演奨励賞
2003年 12月映像情報メディア学会 研究奨励賞
2014年 12月浜松電子工学奨励会 高柳研究奨励賞
2015年 11月Japan Symposium on High-speed Imaging and
Photonics 2015 Junior Researcher Award
2017年   3月第32回電気通信普及財団賞テレコムシステム技術賞
(共同受賞)
2023年   5月International Image Sensor Workshop (IISW) 2023
Poster Award 1st place

主な業績内容

CMOS イメージセンサは、スマートホン内蔵カメラ、車載カメラなど、様々なカメラに不可欠なデバイスである。 近年、高感度化、多画素化、高フレームレート化の進展が著しい。特に、光の飛行時間からシーンの距離画像を得る LiDAR イメージセンサは、拡張現実や車の自動運転への応用に注目が集まっている。

香川氏は、光を情報担体として用いる情報処理技術をバックグラウンドとし、光技術・信号処理技術とを協調すると いう新しいアプローチでCMOS イメージセンサの性能向上に取り組んできた。すなわち、イメージセンサの弱点を光技 術・信号処理技術で補うことで、システムレベルで性能を向上するという、従来にない考え方に基づいている。

1998 年ごろから、撮影後の信号処理を前提として、物理層である光学系で信号処理を行う「コンピュテーショナル フォトグラフィ」の研究に従事して来た。2011 年から、静岡大学の川人祥二教授らが開発した超高速電荷変調器を利用 し、「圧縮センシング」と呼ばれる新しい信号標本化技術に基づく複眼型のCMOSイメージセンサを開発した。これは 露光時にランダムにオン・オフする電子シャッタを用いて電荷領域で光信号を圧縮し、撮像後に復元処理を行う。 電荷変調器のスピードだけで撮影のフレームレートが決まるため、劇的な高速化が可能となる。これにより、単発現象の 超高速ビデオ撮影を、当時世界最高速となる毎秒2億枚(時間分解能5ns相当)で実現し、氏が提唱する新しいアプローチ の効果を実証した。上記の技術は特殊なレンズアレイを必要としており、従来の撮像システムとの適合性に問題があった。 そこで、2015 年から通常の単眼レンズを利用可能な、モザイク状の構造をもつイメージセンサの開発に取り組んだ。 2022 年に毎秒3億枚(時間分解能3。3ns相当)の撮影結果を発表し、実用的な方式で実現できることを示した。 この技術を発展させ、2023 年にイメージセンサにおける重要な学会であるInternational Image Sensor Workshop (IISW)において、毎秒6 億枚(時間分解能1。65ns 相当)の超高速撮像とともに、疑似直接型と呼ぶ 新しい方式のLiDAR イメージセンサへの展開を発表した。

LiDARは、光が路面で反射して人を間接的に照明する、霧により散乱されるといったマルチパス干渉により、距離に 誤り(アーティファクト)が生じるという問題がある。

LiDAR イメージセンサには直接型と間接型があり、前者はマルチパス干渉の影響を受けにくいものの回路規模が大きく 画素数を増やしにくい、後者は回路規模が小さいため多画素化またはセンサの小型化が可能だがマルチパス干渉による 誤りが大きいといった課題がある。氏が開発したイメージセンサは、デバイス的には間接型であるため画素数を増やすこ とに適している。さらに、電荷領域で信号圧縮をして後処理により光波形を復元することから、直接型と同等の特性をも つため、マルチパス干渉による誤りを生じにくい画期的な方式である。その技術的卓越性が評価され、IISW において 43 件のポスター発表からPoster Award 1st placeに選ばれた。

香川氏が開発した擬似直接型LiDAR は、車やドローンの自動運転において注目すべき技術である。 2022 年からJST CREST「情報担体を活用した集積デバイス・システム」領域に研究課題が採択されている。この様に、 香川氏は光技術と信号処理技術とを協調させるという新しいアイデアに基づいて高性能CMOS イメージセンサを提案・ 実証しており、イメージング技術の進歩に大きく貢献している。

「フレキシブルディスプレイ基盤技術の先駆的研究とプロトタイプ開発」

藤崎 写真

藤崎 好英博士

(日本放送協会 放送技術研究所 新機能デバイス研究部 チーフ・リード 1972生)

[学 歴] 1996年  3月早稲田大学 理工学部 電子通信学科 卒業
1998年  3月早稲田大学 大学院 理工学研究科電子情報通信専攻
修士課程 修了
2010年  3月東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 物質電子化学専攻
博士課程 修了
[職 歴] 1998年~2001年日本放送協会 京都放送局
2001年~2013年日本放送協会 放送技術研究所
2013年~2015年日本放送協会 放送技術研究所 新機能デバイス研究部
副部長
2015年~2019年日本放送協会 放送技術研究所 新機能デバイス研究部
上級研究員
2019年~2022年日本放送協会 放送技術研究所 研究企画部 副部長
2022年~現在日本放送協会 放送技術研究所 新機能デバイス研究部
チーフ・リード
  ● 主な受賞等
2006年  5月映像情報メディア学会 鈴木記念奨励賞
2008年  5月映像情報メディア学会 丹羽高柳賞論文賞
2012年 10月IEEE IAS Technical Committee Prize Paper Award
(グループ受賞)
2020年  9月放送文化基金賞 放送技術(グループ部門)

主な業績内容

4K 放送・8K 放送の普及、放送/通信融合による多様な伝送路やメディアサービスの進化に伴い、場所や時間によらず 高画質なコンテンツを楽しめる環境が急速に広がるなか、映像表示を担うディスプレイの役割・重要性は益々高まって いる。プラスチック基板を使ったフレキシブルディスプレイは、超薄型・軽量で柔軟性にも富み、壁紙のような大画面テレビ から収納自在な携帯端末まで多様な視聴形態を可能とするため、メディアサービスに変革をもたらす技術として期待され ている。藤崎氏は、フレキシブルディスプレイの実現を目指した基盤技術の開発を先駆的に推進するとともに、国内外メー カーとの連携によりプロトタイプディスプレイの開発にも成功した。

プラスチック基板は耐熱性が低く、線膨張係数が大きく吸湿性も高いなど、ガラス基板と物性特性が大きく異なるため 従来のディスプレイで使われているデバイスやプロセス技術を適用することができず技術革新が求められていた。藤崎氏 は、2001 年からディスプレイ駆動の要となるTFT(Thin FilmTransistor)の研究に着手した。従来のシリコンに代わ り、有機半導体や酸化物半導体を使った新規TFT の開拓を進め、プラスチック基板上で作製可能な200℃程度の低温プ ロセスでアモルファスシリコンを凌ぐ高移動度性能を達成するとともに、これらTFTを微細・集積化したバックプレーンの 開発によりフレキシブルディスプレイ駆動デバイスの実現に目途を付けた。表示デバイスについても、ポリマー壁を導入し た柔軟な構造を持つフレキシブルな液晶デバイス、水分が浸透し易いプラスチック基板上でも長時間安定に発光できる有 機EL デバイスの開発を推進するとともに、これら表示デバイスとTFT バックプレーンを統合したアクティブ駆動ディスプ レイを業界に先駆けて試作・実証することで、フレキシブルディスプレイの開発に先鞭をつけた。これらの成果がきっかけ の一つとなり、フレキシブルディスプレイ開発が世界中で活性化し、フォルダブルスマートフォンの製品化など、フレキシブ ルディスプレイ実用化の流れにもつながった。

国内外メーカーとの連携により、大画面・高精細フレキシブルディスプレイの実用化を目指したプロトタイプ開発におい ても中心的な役割を担った。一連の取組みの一つとして、2018 年にLG Display Co.Ltd.、アストロデザイン(株)と連 携し、厚さ数ミリの薄板ガラスを用いたシート状の88型8K 有機EL ディスプレイの開発に尽力し、同ディスプレイを活用 した国内外のパブリックビューイングを通じて4K放送・8K 放送開始に向けた普及促進に貢献した。

2019 年には、シャープ(株)と連携し、プラスチック基板を使った重さ100g、厚み約0.5mm の30型4Kフレキシブ ル有機EL ディスプレイの開発にも成功した。同氏らは、高精細表示に適した画素回路の設計をはじめ、画面輝度の高精度 な計測と信号処理により表示ムラを改善する信号処理技術、画素の発光時間と輝度の緻密な制御により動画像を鮮明に 表示する技術を開発・実装するなど、ディスプレイの高画質化に寄与した。当時、中型サイズの高精細フレキシブルディスプ レイを開発した例がなく、国内外の放送機器展への出展をはじめ、多くの番組でも紹介され、将来の視聴スタイルを革新的 に変える技術として大きな反響を得た。

フレキシブルディスプレイの基盤技術開発からプロタイプの実証まで、一連の技術成果は、今後の映像メディアの発展や メディアサービスの向上を支えるディスプレイ技術の進展への大きな波及効果が期待される。