高柳健次郎賞 2022年受賞者

「コミュニケーション工学の先駆的研究ならびに次世代放送技術への貢献」

原島 写真

原島 博
(東京大学 名誉教授 1945年生)

[学 歴] 1968年  3月東京大学 工学部電子工学科 卒業
1970年  3月東京大学大学院 工学系研究科 修士課程 修了
1973年  3月東京大学大学院 博士課程 修了、工学博士
[職 歴] 1973年  4月東京大学 工学部 専任講師
1975年  4月東京大学 助教授
1984年  2月スタンフォード大学 客員研究員(文部省在外研究員)
(10ヵ月)
1991年  1月東京大学 教授
1992年  4月東京大学 工学部 電子情報工学科 学科長(1995年3月まで)
2000年  4月東京大学大学院 情報学環教授
2002年  4月東京大学大学院 情報学環長・学際情報学府長
2004年  4月東京大学大学院 学際情報学府 学際理数情報コース長
2009年  3月東京大学退職、名誉教授
2015年12月東京大学 特任教授
  ● 主な受賞等
1973年電子情報通信学会 米沢記念学術奨励賞
1980年電子情報通信学会 業績賞
1989年電気通信普及財団賞 テレコムシステム技術賞
1990年電子情報通信学会 論文賞
1990年電子情報通信学会 最優秀論文賞
(米沢ファウンダースメダル受賞記念特別賞)
2000年電子情報通信学会 フェロー
2005年日本顔学会 特別功労賞
2006年日本バーチャルリアリティ学会 特別貢献賞
2007年東京都技術振興功労表彰
2008年映像情報メディア学会 論文賞 功績賞
2012年産学官連携功労者表彰 総務大臣賞
2013年文部科学大臣表彰 科学技術賞
2015年日本放送協会 放送文化賞
2015年電波の日 総務大臣表彰
2016年芸術科学会Art and Science

主な業績内容

原島博博士は、東京大学において、「コミュニケーションの基礎」を探ることをテーマに、信号処理、情報通信技術、空間共有 コミュニケーション、知的コミュニケーションなど多岐にわたる研究を先導してきた。特にデジタル放送の基礎となる信号処理 および画像の圧縮符号化技術の開発に大きく貢献するとともに、スーパーハイビジョンや立体テレビなど次世代放送技術の研 究開発を指導するなど、放送文化の発展に努めた。

デジタル技術の黎明期にいち早くデジタル信号処理の研究に着手し、デジタル放送技術の基礎を築いた。大学院時代に開発 した高密度データ伝送方式の研究成果は、Tomlinson-Harashima Precodingとして2006年にツイストペアケーブル のイーサネット世界標準(IEEE規格)に、無線通信の分野ではMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)の非線 形プリコーディング手法にも用いられている。画像のデジタル圧縮符号化の研究においては、知的画像符号化を提唱し画像符 号化の研究を新たな領域に導いた。これは、画像信号の波形を符号化するのではなく、画像を構造や意味に基づいてモデル化 し、そのパラメータだけを符号化するもので、送信側、受信側で知識を共有しておくことで信号を再構成可能とし、大幅な圧縮 が可能となる。これらの研究を背景として、旧郵政省電気通信技術審議会委員、日本放送協会における放送技術研究委員会委 員、放送技術審議会委員、放送技術研究所研究顧問などを歴任した。また、電子情報通信学会論文賞、業績賞、市村学術賞功績 賞、映像情報メディア学会功績賞など、多数の表彰を受けている。

3次元映像を中心とした空間コミュニケーションの研究においては、被写体の3次元的な情報を光線空間として記述する手 法を考案し、従来の立体テレビの枠組みを超えた3次元映像に関する基礎技術を開発するなど、従来型のディスプレイでは実 現できなかったインタラクションや空間コミュニケーションを可能にするシステムを提案した。これは日本放送協会での立体テ レビの研究に受け継がれ研究が進められている。また、これらの業績は、映像情報メディア学会論文賞、著述賞、産学官連携功 労者表彰総務大臣賞などにより評価されている。

知的画像符号化から発展した画像の構造化においては、特に顔画像を対象として実時間表情情報抽出・認識を行う新たな技 術や表情合成技術と結び付けて感性・ユーザーインタフェースへの応用を行う研究を先導した。感性的な対人コミュニケーショ ンの基本である、人の顔・表情や身振り・手振り画像の動的な分析と合成による感性コミュニケーションモデルを構築し、知的コ ミュニケーション、ヒューマンコミュニケーション工学・顔学に代表される新たな学術分野を提唱した。

学会活動においても、人を中心とした情報通信技術の基盤確立に多大な貢献をした。電子情報通信学会ではソサイエティ化 に尽力し基礎・境界ソサイエティ初代会長に就任するとともに,編集理事,副会長、さらにヒューマンコミュニケーショングルー プ創設にも寄与した。他に、映像情報メディア学会会長、IEEE情報理論グループ東京支部チェアマン、日本顔学会の創設、日本 バーチャルリアリティ学会会長などを歴任した。行政機関においても、旧郵政省の放送と視聴覚機能に関する検討会の座長と して、光感受性発作など映像が人に与える影響の検討を指導し、放送の安全性確保に貢献した。次世代放送技術に関する研究 会では、超高精細映像、立体テレビなどの将来の放送技術に関する研究を先導した。