高柳健次郎業績賞 2022年受賞者

「新たな立体知覚現象に基づく360度裸眼3D表示システムの研究開発」

高田 写真

高田 英明

(長崎大学 情報データ科学部・教授 1972年生)

[学 歴] 1995年  3月東海大学 開発工学部 情報通信工学科 卒業
1997年  3月電気通信大学大学院 情報システム学研究科 博士前期課程 修了
2007年  8月早稲田大学大学院 国際情報通信研究科 博士後期課程 修了 博士
(国際情報通信学)
[職 歴] 1997年  4月日本電信電話株式会社 入出力システム研究所
2007年11月早稲田大学 国際情報通信研究センター 客員研究員
(〜2012年3月)
2010年  4月日本電信電話株式会社 研究企画部門 担当課長
2014年10月日本電信電話株式会社 メディアインテリジェンス研究所
主幹研究員
2018年  3月日本電信電話株式会社 サービスエボリューション研究所
主幹研究員・グループリーダ
2020年  4月長崎大学 情報データ科学部・大学院工学研究科 教授(〜現在)
2022年  4月宇都宮大学 オプティクス教育研究センター 客員教授(〜現在)
2022年11月長崎大学 学長補佐・DX推進室長(〜現在)
  ● 主な受賞等
2001年  7月3次元画像コンファレンス 優秀論文賞
2002年  3月日本バーチャルリアリティ学会 学術奨励賞
2003年  5月電子情報通信学会 業績賞
2006年  4月文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)
2006年  4月アドバンスト ディスプレイ オブ ザ イヤー
ディスプレイ・モジュール部門 特別賞
2010年  7月仙台応用情報学研究振興財団 野口賞
2014年10月IEEE IAS Technical Committee Prize
Paper Award (Second Prize)
2016年10月IEEE IAS Technical Committee Prize
Paper Award (Second Prize)
2018年  6月画像電子学会 画像電子技術賞
2021年  6月情報処理学会 論文誌デジタルコンテンツ 論文賞

主な業績内容

将来のサイバー・フィジカル社会における人と人との究極のインタフェースとして、相手があたかもそこにいるかのような超 高臨場感映像が期待されている。その実現に向けて重要な役割を果たす3D映像では、3Dメガネなどを必要とせずに自然な 立体視ができる裸眼3D表示技術の研究が進められている。

特に、表示対象がテーブル上に実在するかのような3D表示は、SF映画などにも登場する仮想空間と現実空間との境界を 意識しない次世代のコミュニケーション、スポーツフィールドを複数人で俯瞰して観戦するライブビューイング、工業製品のデザ インやモデリングなど幅広い応用が期待されている。

髙田英明氏は、新たな立体知覚現象の発見に基づき、前後2面の表示面の明るさの割合を制御するだけで、3Dメガネなど を必要とせずに自然な3D像を簡便な構成、かつ、少ないデータ量で提示できる新たな裸眼3D表示方式を確立し、様々な用途 に向けた小型液晶ディスプレイタイプから大型プロジェクションタイプまでの裸眼3Dディスプレイの実現に成功した。

また、従来の多くの3D表示に用いられる異なる方向から見た複数の映像に着目することで、立体知覚現象のメカニズムを、 複数の映像の間を補間して知覚させるメカニズムに拡張した。新たな光学系の開発と合わせて、従来、膨大な数の映像やプロ ジェクタなどを圧倒的に削減した、世界最大級のインタラクティブ型360度テーブルトップ裸眼3D表示システムを開発した。

最近では、画質や構造に有利な光学系の適用と小型モジュール化の提案により、個人レベルでも利用可能なシンプルかつ高 画質なパーソナル裸眼3D表示システムの実現を目指すなど、視覚の知覚メカニズムを活用する多くの取り組みにより、本分野 を牽引してきた。

観察者から見て奥行き方向に配置した2面の表示面に、表示したい3D像の2D射影像を重なり合うように表示すると、異な る2つの像ではなく、奥行き方向に融合した1つの像として知覚する(奥行き融合現象)。表示したい3D像の奥行き位置に応じ て前後2面の像の輝度比を変化させると、奥行き位置が連続的に変化して知覚する(奥行き位置の連続的知覚現象)。この2つ の現象を、前後2面に積層したそれぞれの液晶パネルの光学的制御や光学スクリーン設計と合わせて実現する新たな裸眼3D 表示方式を考案し、各種用途に応じた多くの裸眼3D表示装置の実現に貢献した。

立体知覚現象の奥行き融合は、眼の網膜上に映った像の水平方向のエッジ知覚に関係することから、多くの3D方式に用い られる視差を用いた視点映像に奥行き融合の概念を適用することで、中間視点相当の映像を視覚的に補間して知覚させるメ カニズムへと発展させた。また、隣接した視点映像を光学的に重ね合わせつつ空中に結像する新たな光学積層スクリーンを開 発し、なめらかで自然な運動視差を実現する独創的な360度全周囲裸眼3D表示技術を創出した。本技術により、従来に比べ て1/5〜1/10程度にまで視点数を削減し、インタラクティブな操作インタフェースを備えた裸眼3D表示システムを開発し た。

このように髙田氏は、利用者が人であることに着目し、人の知覚特性を最大限に活用することで、デバイスの進化だけでなく 人とデバイスとの協調によって技術課題を克服する新たな取り組みにチャレンジし、また、映像関連の学会理事や研究会委員 長、光産業技術のロードマップ策定委員長などを務めるなど、光産業や映像産業の発展に大きく貢献している。